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『一万円選書』(岩田徹)から考える理想の働き方

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どうも、tamaminaoです。

書評が好き、という話しを前々回書いたのですが、今日は非常に面白く読んだ岩田徹さんの『一万円選書』をご紹介します。

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岩田徹さんとは

著者の岩田徹さんは、北海道砂川市で小さな町の本屋「いわた書店」を経営しています。独自の選書サービス「一万円選書」が人気を博し、現在は1年で7日間だけ募集していますが、そこに約3700人!の応募が集まります。過去には7000人!!の応募が殺到したこともあるそう。

このものすごい人数の選書、岩田さんが一人で担当しています。そのため、午後3時から5時までは本屋さんのシャッターを降ろし、「選書」に集中する時間を確保しているそう。

最近では、全国各地から申し込まれる「1万円選書」の売り上げが店頭販売の2倍に! 小さな町の本屋さんとしては、なかなか事例のないことではないでしょうか。

書評本としてもとにかく素晴らしいですが、「一万円選書」というサービスで、困難を極めた書店経営を黒字転換させた経緯を語る「ビジネス書」としても、大きな魅力を放っています。

 

苦労の連続だった書店経営

「いわた書店」は、そもそもは岩田さんのご両親が開業した本屋さん。岩田さん自身は、23歳のときに商社を辞めて入社。38歳のときに経営を引き継ぎました。

これから頑張るぞと、銀行からお金を借りて店舗を改装しますが、何と直後にバブルが崩壊。いわゆる「出版不況」も始まり、「決定的な理由が分からないまま、本が売れなくなって」いき、その後の経営はは大変な苦労の連続となります。

店舗を改装した借金もあるのに、売り上げが立たない。赤字が膨れあがり、本を仕入れるための資金繰りにも胃を痛める日々。ご飯も喉を通らない眠れない夜が続きます。

 

「一万円選書」のきっかけは

そんな岩田さんが一万円選書を始めたのは2007年のこと。書店経営がうまく行っていないことを知った函館ラ・サール高校時代の先輩が、「これで本を選んで」と一万円札を渡してくれたのが、転換点となりました。

 

このとき僕は改めて、「読者の目線で本棚を見直す」ことの大切さにも気づかされました。これまで、新刊やベストセラーを中心に棚を考えていたのですが、読者は一人ひとり違うのだから、求めている本も一冊一冊違うはずだと気づいたんです。(中略)この経験から僕は、読者が「いま何を読みたいか」にもっと耳を傾けて本をおすすめする本屋になりたいと思うようになりました。そうしたオーダーメイドの選書こそ、僕にできることなんじゃないか、と。

深夜番組が岩田さんの運命を変える

オーダーメイドの選書を行う本屋さん。友人のおかげで岩田さんがつかんだ着想は、1万冊の本を読んできた岩田さんだからこそできる方向性でもありました。

しかし、実際に1万円選書を始めて見たところ、当初は月に1~2人程度の申し込みしかなかったそうです。もう店をたたむしかない、というところまで経営は追い詰められますが、このタイミングで受けた取材が岩田さんの運命を大きく変えることになります。

期待せずに受けたテレビ番組の取材でした。放送時間が夜中なので、見る人は少ないだろう、と思っていたのです。しかし、これが大当たり。スマホ世代の若者たちがSNSで情報を広め、問い合わせが殺到することになります。

私がすごいなと思ったのは、テレビから火がついたブームが一時的なもので終わらなかったところ。選書サービスを利用した顧客がSNSで書き込みを行い、それを見た人がまた応募する、という好循環が生まれ、現在も人気を保ち続けているのです。SNSを介したクチコミがいわた書店の人気を支えているわけです。

「一万円選書」ななぜ人気なのか

さて、なぜこんなにも岩田さんの一万円選書は人気が高いのか。それは、選書希望者の人生や気持ちに寄り添った本を選んでくれるから。

岩田さんは「選書カルテ」というものを用意していて、選書を希望する人は、まずはこのカルテに記入することが必要になります。

本書内には、カルテの質問がすべて掲載されているのですが、これを全部本気で書いたら、相当の労力と時間がかかるな、というのが正直な感想。「印象に残っている20冊」「これまでの人生で嬉しかったこと楽しかったこと」「何歳のときの自分が好きですか」、等、これまでの人生を棚卸ろしするような内容となっています。

書く側も一苦労ですが、これを読む岩田さんの労力はさらに大変なことと想像できます。しかし、岩田さんは送られてくるカルテを熟読し、自身が読んできた約一万冊のストックの中から、その人の人生に寄り添うだろう本をセレクトしていきます。

「1万円」という価格で複数冊を選ぶことで、その人にアプローチしそうな本をさまざまな方向から選べる、と語る岩田さん。

まさに、本のコンペ、と言う感じですよね。このジャンルいかがでしょう、このテーマいかがでしょう、と、自分にハマりそうな本が色々な角度から提出されてくるわけですよね。うん、うん、これはもう本好きにはたまらないですね。

岩田さんがやっていることは、お客さんの中で顕在化している「これがほしい」(Needs)ではなく、潜在的な欲求(Wants)を創造することだ、という分析が出てくるのですが、まさに! なるほど、と思いました。

人間が「選書」するからこそ、の魅力

ちょっと話が変わってしまいますが、私は将棋の対局を見るのが好きで、こちらのブログでも将棋記事を色々あげています。

 

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将棋というジャンルは、AIがかなりのところ解析してしまっており、例えば、プロ棋士同士の対局をAIソフトに入れると、「最善手」(その局面で一番いい一手)が一発で出てきてしまうんです。

しかし、私たちは人間同士の対局を見ることをやめません。人間は間違う。必ずしも最善手は打たない。それが面白い。逆に、藤井聡太五冠が持て囃された「AI越えの一手」などというものを打つ瞬間もあったりします。

人間ならではのトラブルや温かさや奇跡に魅せられるわけで、「一万円選書」もこれに似ている気がするのです。

例えば、選書AI的なものがあったとして(Amazonのおすすめは、ほぼ選書AIですね)、好きな小説、設定、ジャンル等を入れたら、「あなたへの一万円選書」ができるだろうと思うのですが、これだと何とも味気ない。

およそ直接的ではない「これまでの人生で嬉しかったこと楽しかったこと」(カルテ内の一項目)の1行から何かを読み取って、感じて、自分の人生とも重ねながら選んでくれる1冊。そこにこそ、こちらが予想もしなかった、でも心を打つ1冊が選ばれて来たりする、そんな気がします。

スキルで人に幸せを与えお金を得る

岩田さんは書店経営で辛酸を味わった時代もありますが、「一万円選書」を確立してからは、実に楽しくやりがいを持って働かれています。その姿からも思うことは、自分のスキルを活かして人に幸せを与え、それがお金になる、これほど幸せなことってないなぁ、と。


替えのきかない自分の個性を活かし、自分ができる範囲の顧客に向けて喜んでいただけるサービスを提供する。代わりが効かない分非効率で、富豪になるほど儲けることもないかも知れない。しかし、一つの働き方の理想形のような気がしました。


ブログやYouTubeなどの目指すところも、結局は一緒ですよね。「スキルを活かして誰かの役に立ち、それがお金になる」。ブログ、YouTubeは「お金になる」の部分が難しすぎるジャンルなのですが(^▽^;)。


読みたい本が見つかる秀逸な書評本としてもビジネス書としても実に面白い1冊。『一万円選書』、是非手に取ってみてください。

 

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