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朝井リョウ『何者』から考える、SNSとの付き合い方

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どうも、 tamaminaoです。今日も音声入力と手入力の合わせ技で書いています。

ブログをやっている皆さんは、かなりの確率で、SNSをやられているのではないかと思います。私自身も、仕事上でTwitter、Instagram、Facebookのアカウントを持っていますが、実はプライベートではあえてアカウントを作っていません。きっと珍しいタイプでしょう。

本日紹介する朝井リョウさんの『何者』はSNSとの付き合い方を考えさせられる小説です。

 

朝井リョウ『何者』の粗筋

主人公の二宮拓人は、同じ大学に通う神谷光太郎とルームシェアをしています。拓人は光太郎の元カノ田名部瑞月に密かに想いを寄せているのですが、ある日偶然、瑞月の友人・小早川里香が、同じアパートの上階に住んでいることを知ります。里香は、恋人の宮本隆良と同棲中でした。

拓人・光太郎・瑞月・里香・隆良の5人には、同じ大学の5年生で就職活動を控えているという共通項があります。以来5人は、里香と隆良の部屋に集まって、一緒にエントリーシートを書いたり、面接対策をしたりするようになるのですが……。

 

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なかなか粗筋を紹介しにくい小説です。「登場人物5人の姿を通して、就活をリアルに描いた小説」というのが骨子ではあるのですが、そこに大きく絡んでくるのがSNSという存在です。

意識高い系女子・里香

よくも悪くも里香という女子が心に焼き付きました。いわゆる「意識高い系」と評されそうな彼女は、学内で最も偏差値の高い学部に所属し、留学や海外ボランティア等の経験もあります。

学生でありながら名刺を作成し、そこに「武本ゼミ 副ゼミ長、御山祭実行委員広報班班長」等の肩書まで入れる里香。その姿は、拓人と光太郎の二人から、「学級委員系女子」と陰で揶揄されたりもしています。

彼女はOB訪問などを積極的に行っているのですが、OBのプライベートのメールアドレスを聞き、そのメールアドレスからTwitterのアカウントを検索する、と言うことを行っています。無知な私は知らなかったのですが、メールアドレスからTwitterのアカウント検索できちゃうんですね!? 怖過ぎます…

「その人が普段やりとりしてる人もまとめてフォローしちゃえば、話聞くよりも、本当の会社生活ぶりがわかったりするんだよね」

「OB訪問ではああ言ってたけど本当はこれぐらいまで残業してるんだとか、この業界の人は普段こういうニュースに関心持つんだとか。実際、話はステキだったのに現実では愚痴ばっかりの人もいたり」

こわっ!!怖すぎる!!!

私がもしSNSで色々書きまくっていたら、例えば職場の新人にプライベートのメールを教えたときに、そこから検索かけられて、「偉そうに指導してるくせに、会社の悪口書いてる」とか、「毎日疲れ果てて辞めたい辞めたい言ってる」とか、写真なんかアップしてた日には、「あの先輩の彼氏太ってた時の金正恩にクリソツ」とか、裏の姿が知られてしまうわけですね。

…いや、ほんと、恐ろしい話です。

localfolio.leadplus.co.jp

 

SNSによって破綻していく人間関係

SNS での発信内容が絡み、表の人間関係までを変えてしまうというのが、この小説の裏に流れるテーマなのですが…

ここからごめんなさい、ネタバレです!!! 今後読むもうと思っている方は、ここで止まってくださいませ。

 

 

 

 

 

 

ネタバレあり

↓↓

決して言えないと思いますが(^▽^;)、続に言う「裏アカ」というものをお持ちの方はいらっしゃいますでしょうか。

『何者』の主人公の拓人は、Twitterで別なアカウント(裏アカ)を作り、他4人の就活や就活への姿勢を上から目線で批評したり毒づいたりしていました。書くことで、自身の観察者という立ち位置、優位性を保っていたとも言えるのですが、その裏アカを、「メールから特定する」という上記の方法で里香に発見され、読まれてしまいます。

ぞっとする話ですが、一方で、拓人は、そういった方法で読まれる場合もあると分かりながら、アカウントをロックしたり消去したりはしませんでした。

だってあんた、自分のツイート大好きだもんね。自分の観察と分析はサイコーに鋭いって思ってるもんね。どうせ、たまに読み返したりしてるんでしょ? あんたにとってあのアカウントはあったかい布団みたいなもんなんでしょ。精神安定剤、手放せるわけないもんね

「いいね」は麻薬なのか

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リツイートされたり、お気に入りに登録されたり、SNSで誰かに認められることってそれほどに麻薬のようなものなんでしょうか。SNSという存在がない中で青春時代を送ってきた昭和生まれの自分には、その麻薬加減が正直よく分からないんです。

裏アカにしなければいけないような内容を、ネット上で全世界に発信する意味ってあるのかな。日記かノートにでもこっそり書いて引き出しにしまっとけば?、って思うのですが、それではダメなようです、

里香も拓人に言います。

思ったことを残したいなら、ノートにでも書けばいいのに、それじゃ足りないんだよね。自分の名前じゃ、自分の文字じゃ、だめなんだよね。自分じゃない誰かになれる場所がないと、もうどこにも立っていられないんだよね

この一文を読んで、若者たちがSNSに求めるものの一つが分かった気がしました。「自分じゃない誰かになれる場所」、特別な自分を作れる場所。

 

息子たち中学生世代のSNS

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小学校高学年くらいからでしょうか。息子たちの学年では、ときどき、SNS絡みのトラブルが起こります。

誰かのインスタに、同じ学年の複数人が嫌がらせの書き込みをした、とか。ツイッターに「死にたい」って書いているのを他の子が見つけて先生に話した、とか。

親も学校も知り得ない手の届かない場所で「自分じゃない誰か」になれる場所。そう考えると、思春期の子供たちにとっては何て魅力的なのかとも思います。

人間は場所によって変身する生き物だと思うんです。会社では弱腰キャラだけど、大学時代の友人と会っているときはお笑いキャラになったり、家ではしっかり者のお父さんだったり。一言で言い表せないのが人間というもので、多面的で当たり前ですよね。

自分で考えても、スーツ着て取材してるときの自分と、立ち上がる度に半ケツが顔出すゴムゆるスエットはいて、「痔が痛いわ…」と呟く家での自分が同じ人格とは到底思えないほどです。

リアルな多面性というのは、リアルな身体がくっついている分、やはり地続きな自分としてあると思うのですが、身体がないSNSは、現実とは乖離することもできて、何でもできちゃう。自分じゃない自分になれる、という部分があるのでしょうね。

本当の自分を出せる場所はどこだ

さて、ここまで書いたところで、SNSネイティブ世代の息子に、「SNSって自分じゃない誰かになれる場所なの?」って聞いたら、息子は「うーん…」としばらく考えた末、次のようなこと言いました。

「そういう人もいると思うけど、ほとんどは逆じゃないかな。現実では本音が言えなくて、SNSだけが本当の自分を出せる場所なんじゃない? だから、みんなに共感してもらいたいんだよ」

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息子、すばらしい見解!!(親バカです)

 

「本当の自分」を理解してほしいから発信する

主人公の拓人の裏アカも、現実では相手に言えない「本音」を書き連ねているんですよね。だからこそ、切実に「共感」がほしい。本当の自分を理解してほしい、分かってほしいからこそ発信する。これは、麻薬になりますね!!! 

息子の言葉を聞いて、ようやくSNS中毒になる気持ちが分かりました。ノートにこっそり書いていても、誰からも共感はもらえない。私の書いているブログも一緒。

そして、「SNSだけが本音を言える場所」にならないように、リアルな人間関係を充実させていく大切さを身に染みて感じたのでした。息子に対しても、SNSに救いを求めなくて済むような母親でありたい、って心から思いました(難しいことですが)

『何者』の続編は『何様』

朝井リョウさんの『何者』は続編も出ています。こちらの感想は下記からお読みください!

 

tamaminao.info

 

最後まで読んでいただきありがとうございした!

 

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